概要 |
■接客の原点 あいさつは、人と人とのコミュニケーションの原点であり、人間は互いを思う言葉をきっかけとして円滑な関係を築くことができると考えられます。円滑な人間関係があるからこそ、人は安心してその会社に定着し、長く働けるのです。そうした効果をうまく生かしているのが接客業やサービス業で、その代表的な業種にホテル業があります。 ホテルに入ると、まず、「いらっしゃいませ、お客さま」とあいさつしてくれます。それだけなら当たり前なのですが、チェックアウトをしてホテルを出る際も、「〇〇さま、またお越しくださいませ」と名前を言って、宿泊客の姿が見えなくなるまでお辞儀をしたまま見送ります。 なぜ、ホテルではこのような対応を徹底していると思いますか。売っているものは「モノ」ではなく「サービス」で、サービスによる顧客の満足は、それを提供する人の心でしか実現することができないからです。特に、今の時代、世の中にはモノがあふれており、商品力だけでは顧客を引きつけることが難しくなっています。 その中で付加価値を高めるには、サービスを提供する側の人間的な魅力や対応力がものを言います。それによって顧客の心が動き、リピートへつながると考えられます。最近よく、「〇〇のコンシェルジュ」という言葉を耳にすることがあると思いますが、それはホテルのコンシェルジュの精神や対応力でサービスの価値を高めようということを狙いとしたものと言えるでしょう。 更に、「サービスの付加価値を高める」という点では、以前マクドナルドで実施していた「スマイル0円」があります。注文レジで最初にお客さまに対面する時、スマイルこそ売りての心を伝える最高のあいさつではないでしょうか。「いらっしゃいませ、お客さま」と心を込めて笑顔で接してもらえば、誰でもうれしい気持ちになるはずです。そこから商売がスタートするというのが接客業の原点で、単なるモノの売り買いだけで商売が成立するわけではないという、ビジネスの哲学のようなものを感じることができます。 ■作法と礼儀 私たちの生活や身の回りを見渡すと、あいさつの大切さがいくつもあるものです。例えば、華道や茶道もそのひとつです。これらには作法があります。そのひとつひとつにちゃんとした意味があります。 流派によって作法の違いもあり、難しい話は別として、茶道でよくお茶碗をくるくる回す様子を見たことがあると思います。あれは、絵柄のある茶碗の正面、もしくは無地の茶碗なら焼き色の良い部分をお客様側に向けて出すためなのです。 相手に本や書類を手渡す時に、正面を向けて渡すのと反対に向けるのでは、相手が受ける印象はまるで違ってしまいます。ちょっとした配慮でお互いの気持ちが通い合うわけですから、そうした些細な礼儀もあいさつのひとつとして心得ておくと、仕事での顧客への対応や職場の雰囲気も大きく違ってくるはずです。 次にスポーツ。特に柔道や剣道、相撲などの武道では、「礼に始まり、礼に終わる」という言葉を聞きます。格上の相手であれば、たとえ年下でも「ご指導よろしくお願いします」と頭を下げ、同格の相手には「練習の相手になってくれてありがとう」と感謝し、また格下には「この練習を自分の糧にさせてもらいます」と謙虚な気持ちを伝えます。 「心・技・体」と言いますが、「心」は精神力であり、それには相手に対する礼儀も含まれていると思います。道場や稽古場では、単に技術を習得するだけではなく、人格的にも優れた人間になることを尊重しているのです。礼儀を人間形成の基本としているからこそ、それを目的に子供に武道を習わせる親御さんも多いと聞きます。 ■精神が基盤 以上の点から、あいさつや礼儀を身に着けることは、自分を磨き高めるための手法のひとつと言えるでしょう。人間というものは、自身の心や精神を基盤に日々を生きているものです。あいさつや礼儀で精神を高めるのは自分自身の成長のためであり、また、それによって相手も良い影響を受け、お互いの成長につながるシナジー効果が生まれると考えられます。 |
物流ニッポン 2019年10月11日掲載 人財育成・定着◆実践セミナー② |
物流ニッポン新聞社
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