ロジクエスト株式会社 講演 メディア掲載

概要

1. はじめに:10年前とあまり変わらない物流現場の実情
 今年も2年に一度の「ロジスティクスソリューションフェア2019」が開催される。テーマがロジスティクスイノベーションとAIR(AI、IoT、RPA)の活用である。今年のフェアも様々なロジスティクスに関わる新しい技術を見て試す機会につながるので、私の教育先の現場の仲間には、交代で良いので、スケジュール調整をして必ず見に行くことを積極的に促している。

 さて、私は、運送・物流に関連する現場改善コンサルティングや人財育成の仕事を13年続けてきた。これまで、延べ700社7000人以上の企業の方をご支援させていただいている。 近年、物流現場では、荷主から求められる「スピード」と「品質」への要求が上がってきている。この荷主からの2つの要求に応えるために、現場に高度なマテハンやWMSやTMSなどの物流システムを導入せざるを得ないのが実情である。

  しかしながら、高度なマテハンや物流システムは、導入費用が高額になるため、導入先は大手に限られてしまう。特に「スピード」と「品質」を求められるネット通販や人の命に関わる医薬品・医療機器の分野、食品系など賞味期限やロットなどの正確性、安全性を求められる分野では積極的に物流現場に投資をして高度なマテハンや物流システムの導入を図っている。

  だが、日本の99%以上が中小企業なのを考えると、実は、多くの物流現場では、コンベヤ等の必要最低限のマテハン機器や倉庫管理のための簡易WMSや検品のハンディターミナルが導入されている位で、今でもあまり昔と変わらぬ「人」が主体の人海戦術の物流が行われている。

 先日訪問したある物流会社の社長は、「清水さん、このままでは、あと10年もすればうちの現場はなくなるよ。今のうちの平均年齢は58歳だからね。若い人を募集したってうちみたいな中小零細企業に人は来ないよ。新しい機械や物流を管理するシステムを導入したって現場の人がうまく使いこなせないよ。みんな新しいことをやろうとすると抵抗するし、改善も進まないよ。うちは、10年前と物流のやり方も変わらないままだね。あと、うちは3人の子供が娘ばかりで嫁いでいってしまって、後継者もいないし。いまさら、こんな小さい物流会社に明るい未来はないよ」などと語っていました。今後、団塊の世代が 75歳を超えて後期高齢者となり、日本人の3 人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上の 超高齢者社会を迎えるという2025年問題が叫ばれている。日本の 中小企業(個人事業者含む)の最大で1/3が 2025年までに廃業を余儀なくされる可能性があるのだ。

2. 今年の経営課題は、山積み
 このような日本の中小の物流企業を取り巻く環境は、大変厳しい状況の中で、今年は消費増税もある。 オリンピックに向けての物流需要の増加による人手不足による運賃の上昇、人件費の高騰、燃料代高騰、電気代の高騰等が続く。 世界経済も米中の貿易戦争やイギリスのブレグジットなど混迷を極める中で、平成に別れを告げ、令和の時代に突入した。 いまだ、成長戦略を描けていない日本は、今後どう進んでいくのか?多くの経営者の悩みはつきない。 物流業は、未曽有の人手不足で瀬戸際の経営が続く。今年は、中小企業の延命ルールが消滅し、金融機関の融資の厳格化が進み、大倒産時代が来ると雑誌をにぎわしている。一寸先は光か闇か?

 どんなに見通しが悪くとも物流事業者は立ち止まってはいけないと、私は物流の中小企業の経営者に伝えている。変化のスピードが早い時代に、いつまでも古いやり方をしていると取り残されてしまうからだ。陳腐化したビジネスモデルにしがみつけば、倒産の足音が近づくだけである。 少しでも現場を改善するために新しいものを取り入れ、変化を受け入れることが大切である。そのためには、日々、現場でのイノベーションに積極的に投資していく必要がある。

  しかし、イノベーションなんてうちにはできない!大手の話だろと吐き捨てます。イノベーションは、お金がかかり、大企業だけができるものだ。そもそも中小企業では、新技術や新しいやり方なんて簡単に見つからないと思うのは間違いである。 イノベーションは必ずしも成功するわけではなく、どうすれば成功の確率をあげていけるのかを考えることだ。イノベーションとは、案外、物流現場のちょっとした梱包の改善やピッキングの改善など身近なところにヒントがあり、敷居の高いものではない。 今、多くの物流現場で高齢化した人材が多く過去の成功にしがみついている人が多い。そこに、若者が入ってこないために、現場の発想が貧弱になり、新しい技術や変化を受け入れようとしなくなっている。そういった負の連鎖に問題が、イノベーションを遠ざけているのではないかと私は考える。

3. 人手不足時代の物流現場での新たなテクノロジーの役割
これから、少子高齢化が加速し、2030年までに7073万人の労働需要に対して、労働供給(失業者61万人を除く)と6429万人となり、644万人の人手不足となると、パーソナル総合研究所×中央大学「労働市場の未来推計2030」の調査で示されている。そこで、一番効果のある具体策は、生産性の向上のためのAI、IoT、RPA、ロボットなどの自動化の技術の現場での活用である。

 この自動化(オートメーション化)の技術は、1960年代頃に自動車業界では積極的に取り入れられた。当時の未来予測では、単純労働は減少し、知識労働が中心の世の中になると予想されていた。しかし、60年近く立った21世紀の現在、本当に単純労働が減少したのでしょうか?

 現実には運送・物流の現場はそうなっていません。知識労働とロボットによる オートメーション化した現場がどれだけあるのか?というと大手企業に限られるのである。

 しかしながら、先進国における働き手の減少、少子高齢化の社会 問題を解決するには、中小企業にこそAI、RPA、ロボットなどを導入しなくてはならないと私は考えます。

 AIのブームは、流行っては、廃るの繰り返しでしたが、今、機が熟して来ている。なぜなら、これまでの研究段階や実証実験中ではなく、物流の様々な分野で活用され導入され効果を出しているからである。

4. 物流現場での生産性を高めるAI・ロボット等の活用事例
 最新事例として、日雑系卸の株式会社あらたの筑波センターに導入された、寺田精工のAIピッキングカートは、物流の現場で一番時間がかかり、効率化が遅れていたピッキングの生産性を向上させている。4つの取引先を同時にピッキングでき、重量検品や誤出荷防止の仕組み、通路を渋滞させないためのアルゴリズムなどを組み合わせた優れた物流システムである。生産性を向上させ、ヒューマンエラーを削減し、現場で働くパート社員の働く環境を改善している。

そして、先日弊社の運送・物流業界の仲間が物流を学びに集まる会員組織の「ロジクエストアカデミーPremiumClass」の物流施設見学会で訪問させていただいた、株式会社きくや美粧堂では 配送コストを最適化する、寺岡精工の自走採寸軽量スケール「SmartQbing」を導入している。 コンベヤーの上に置いた荷物がゲートセンサーを通過すると、瞬時にサイズ(縦・横・高さ)を 自動計測するとともに、重さを自動計量。毎分120mの速度で動くコンベヤーに平均荷姿長40cmの荷物を40cmの搬送間隔で流した場合、1時間あたり9000個を自動計測できる。そのため、従来は、ドライバーが計測と端末入力で2~3時間をかけてトラックに荷物を積んでいたものを半分以下の時間に削減させている。

その他、特に私が注目するのは、工場や物流の現場、林業などの分野での重量物の運搬では導入されている、AI搭載のロボットのパワーアシストスーツである。 私もかつて病院の現場で働いて見てきたが、介護士さんの入浴介助では腰痛の発生など大変な重筋労働であり、看護師さんの寝たきり患者さんの褥瘡(床ずれ)の発生を防ぐための体交などメディカル業界における身体的負担と業務時間の削減などの効果があり、離職率の高い、介護・看護業界における職場環境の改善にもつながると私は考えている。

また、RPAについては、通販物流、メディカル物流、食品物流のように24時間365日止まらない物流の現場では事務作業において有効性を見いだせる。大量に受注データを集計し、処理するような場合や、決められた時間の大量のバッチ処理などは人がやるよりは、ミスなく効率的に活用することができる。しかし、あくまでも、毎月継続的なボリュームがないと導入効果は低く、物流現場は毎月の波動が多く、まだ導入の検討段階であると私はとらえている。

5. 生産性向上のためのAI・IoT・RPA・ロボットは必要なのか?
 このように、物流の現場においては、AIやロボットは有効に活用され始め、これまでの物流現場の非効率な人海戦術による作業の改善に繋がっている。 しかし、残念ながら、まだ多くの中小物流現場に多く取り入れられているとは言えないのが現状である。

 私が、全国の物流現場を訪問していて思うことは、多くの現場では、AIってなんですか?IoT・RPAってなんですか?導入すると本当に生産性が上がるのですか?ロボットってペッパー君のこと?なんて感じで、言葉の意味すら知らない現場の幹部が多いというのが実態である。

 つまり、中小企業の物流現場では、AI・RPA・ロボットなどの言葉を耳にはするものの、まだそれを活用する 土壌ができていないのである。

 現在、人手不足が確実に進む中で、アナログであるが「人がやらなくてはならない仕事」と「人でなくても良い仕事」を見極めることが生産性向上の第一歩であると私は考える。次に、AIとは何なのか?RPAとは何なのか?ロボットの活用とは何なのか?を物流企業の幹部が基礎知識をしっかりと学び、AI・RPA・ロボットを導入して管理できる現場人財の育成をしなくてはならない。

6. 運送・物流現場の人財育成の現状と課題
 現在、日本では、少子高齢化が進行し深刻度を増している。政府主導で「働き方改革」が叫ばれているが、運送業界では、ドライバー不足は顕著であり、人手不足倒産する企業も出始めている。運送業は、他産業に比較して労働時間が長く、給与も低い状態で、若い人が入ってこない悪循環が続いている。 また、今の20代の若者の普通自動車免許の取得率も低下傾向で、オートマでの免許取得が多く、トラックはマニュアル車が基本のため、今後も若手のドライバーの増加は見込めない。 物流の現場でも、現場のパート・アルバイト社員も冷暖房完備など働く環境の条件が良くなければ、賃金だけ高くても募集しても集まらないほど厳しい状況である。 今後も、人手不足の状況は解消されないので、いかに少人数で効率的に仕事ができる、AI・IoT・RPA・ロボットを活用した仕組みづくりが求められている。

7. 終わりに ロジスティクスイノベーションが物流現場を救うのか?
 戦後日本は、アメリカから「統計的品質管理」を導入し、アメリカに追いつけ追い越せで工場や物流現場のイノベーションをすすめてきた。特に、製造現場を中心に展開された小集団活動によるQCサークル活動が全国に普及するとともに品質管理に対する意識が向上し、昭和30年代には、安かろう悪かろうと言われた日本製品の品質を世界一へと高めてきた。 皆さんもご存知のPDCAサイクルで有名なW.Aシューハートから学び、品質管理を体系化したW.E.デミング博士など日本企業は、米国から品質管理における著名な指導者を招聘して、経済界全体をあげて品質向上に積極的に取り組んできた。

 結果として、1960年代は、繊維製品、1970年代は鉄鋼製品を世界に輸出が拡大。1980年代には日本の製造業のビジネスモデルが完成を迎え、自動車、家電、半導体メーカー製品の価格競争力が高くなり、売上を拡大していった。 しかし、1980年代には、日米の貿易摩擦が激しくなり、「ジャパン・バッシング」の動きも拡大した。貿易摩擦では、日本に制裁も課された一方で、米国では、日本研究も盛んとなった。1979年にハーバード大学のエズラ・ボーゲルが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を出版し、日本の高い経済成長の原因は、当時の通商産業省や大蔵省の優秀な官僚が経済界をサポートし、日本人の学習意欲の高さ、読書習慣、数学力の高さ等が相まって形づくられているという内容で称賛された。日本でも翻訳版が出版され70万部を記録し、日本人は、日本が世界一の経済大国になったという幻想を抱いた。しかし、今思えば大きな間違いであったのである。常にライバル国から研究されていることを意識せず、日本の企業は変化に遅れてしまい、市場に新しい価値を提供できず、イノベーションが停滞してしまったのです。

 そして、バブル崩壊後の失われた20年の間に、新しいビジネスの種は、欧米諸国から生まれているが、日本からアップルのiPhoneなどの目新しい技術は生まれていない。日本の製造業は市場も生産拠点も海外シフトが進み、新興国の工場も実力を高めてきている中で、弱体化してしまった感が否めない。

だが、日本の製造業も手をこまねいているばかりではなく、欧米諸国に負けまいと、生産技術やコスト低減、自動化設備を開発し活用する技術を高めてきた。また、製造業だけでなく、物流業でもロボット倉庫や自動倉庫などの自動化技術を駆使して、より高いレベルの「生産性」と「品質」を目指して、現場改革を進めている企業もたくさん出始めている。

 最後に、私は、運送・物流業界のイノベーションが停滞しないように、特に業界内で働く若者の新しい発想や考え方に耳を傾けて、彼らがやりたいことを実現できるお手伝いをしてきたいと思っています。また、物流現場にイノベーションを起こそうと、日夜泥臭い仕事も頑張っている現場で働く若者や中堅の現場リーダーを今後も地道に支援していきたいと考えている。

流通ネットワーキング 2019年9・10月号 掲載 日本工業出版社

「物流現場のイノベーション」