概要 |
はじめに:震災からの物流現場の復興 東日本大震災から7年が経過してきていますが、東北最大手の業務用食品卸業のサトー商会も当時は、大きな被害を受けた。 2011年3月11日(金)に発生した東日本大震災の激しい揺れによって、物流倉庫の建屋の損傷や冷蔵・冷凍倉庫内の棚から商品が大量に落下し、食用油などが床一面に広がり、物流センター内は、翌日の出荷に向けて大変な事態に陥りました。油を吸収するものがなく、小麦粉をまいて、そのあとのカスの掃除に大変苦労した話を聞いたのを憶えている。その後、物流センターの輸送課・商品管理課のメンバーが一丸となり、物流の復旧に全力をあげて取り組んだ。 ちょうど、私も震災前の週の3月6日(日)にサトー商会の仙台本社にてコーチングやチームビルディングなどの講義をしたあとの翌週の出来事で本当に心配した。運送・物流現場で使えるコーチングの技術やチームビルディングを実践で活かして、物流現場の人財育成や現場改善を進めていこうという矢先の出来事であった。 それでも、コツコツと震災以降、チーム力を高め人財の定着率の高い企業に進化している。 サトー商会とは? 業務用食品卸売業では、東北最大手のジャスダック上場企業である。東北の食を支える老舗企業で昭和23年の創業から70年目を迎えます。サトー商会には、東北の豊かな食生活を支える約22,000アイテム以上の多彩な食品・食材群や機器を取り扱っている。商品特性ごとの3温度帯の保管管理(常温・冷蔵・冷凍)賞味期限等の品質管理を徹底し、納品(配達)のトラックも2温度帯に分かれた車輌を使用しています。輸配送における品温,品質等の事故がないように「絶対安心体制」の物流システム管理を行っている。 このように多品種のアイテムを扱うために、6つの事業部を展開しています。 1つ目が「製菓部」で、製菓・製パンの原材料、包装資材、設備、機械及び業務用厨房機材の販売などを行っている。2つ目は「学校給食部」で学校給食センター、料理学校、各種施設、保育所向け食品、消耗品販売を行っている。3つ目は「給食部」で施設給食、事業所給食、病院給食、自衛隊、行楽弁当、日替弁当、向けの食品、消耗品の販売などを行っている。4つ目は「外食部」でホテル、レストラン、旅館、会館等の業務用食材の販売 洋食食材、和食食材、中華直材などを提供している。5つ目は「総菜部」でコンビニ、量販店(スーパー)向け惣菜食材、農水畜産物加工用食品、加工原材料の販売を行っている。6つ目は「C&C(キャッシュ&キャリー)」でサトー商会業務用食品直売センターの運営を行っている。岩手県1店舗、山形県1店舗、宮城県12店舗、福島県5店舗運営している。日本外食流通サービス協会(JFSA)を立ち上げて、北海道から九州までの食品卸にもオリジナルブランドのJFSAブランドの食品や鶏肉などの冷凍食品も取り扱い提供している。また、近年話題ハラルフードの取り扱いも東北でいち早く取り扱っている。高品質で低価格で5,000アイテム以上の豊富な品揃えやイベント用、BBQ用食材、チョコレートなどの製菓材料も揃っている。地元の中小の飲食店には圧倒的な支持を得ている。 そんなサトー商会の平成29年3月期の発表された業績を見ると売上高485億5百万円(前期比0.6%増加)、営業利益13億73百万円(前期比12.3%増加)、経常利益15億86百万円(前期比9.2%増加)で増収増益決算の好業績を達成している。 サトー商会の経営方針は、「企業の質と価値を高める」ために、人財の育成と環境づくりを重点政策として取り組んできています。その成果が、着実に業績に結び付き、売上高、利益ともに堅調に伸びている企業である。 サトー商会の人財育成の目的とは? 私がサトー商会の物流部の人財育成や改善活動への指導などをしてもう10年ほどになる。1990年代の後半から食品の卸業界では再編が続いて、地方の卸売業が大手卸や流通企業に吸収合併されている中で、サトー商会は勝ち残ってきた。同業他社との差別化戦略において、お客様の期待に応えられる「質」と「価値」を高め、「付加価値」を生む人財の育成のための投資を10年も継続している。 「品質」=「人質(じんしつ)」とはいいますが、人の質を上げていくためには、時間をかけなくてはならない。この10年間、現場で一緒に泣き笑いして、人財を育ててきた事例をご紹介させていただく。 サトー商会での全社一丸となった人財育成の取り組み さて、まず、人財育成において、何から取り組んだのかというと、全社一丸となって同じ目線でお客様に向けたサービスを提供するという当時の社長の方針で、サトー商会の全拠点で「あいさつとマナーの徹底教育」を行った。1年間かけて、私が全営業所を回り、「あいさつの意義と目的」~なぜ挨拶が嫌いになるのか?~をテーマに、まずは、お客様に対して徹底したあいさつができる人財の育成に取り組んだ。 どの営業所でも事務から営業マン、商品管理課、輸送課など様々な部門のメンバーが、初心にかえって、お客様にできる最高の挨拶を考えてもらった。 併せて、私の専門分野でもある運送・物流現場の人財育成もスタートして、足掛け10年ほどになる。 「継続は力なり」とは言いますが、運送・物流現場の人財育成や改善は、10年かけてようやく形になるものだと私は考える。 よく、多くの運送・物流企業の経営者や幹部の方に、物流現場を改善できるリーダーをどうやって育てたらよいか?という質問を受けますが、時間がかかっても基礎からじっくり体系的に物流を学ばせていくことが大事だと伝えている。人財の育成に特効薬はないのである。 サトー商会では、階層に分けて教育をスタートしました。組織はリーダーの力量以上に良くならないとはよく言われますが「管理者の教育」からスタートしている。 まず、3カ年の物流教育計画を作りこんだ。物流現場の人財というより、お客様サービスのできる1流の営業マンを育てる意気込みで研修内容を作りこみました。研修の目的を2つ掲げた。 ① 人前で堂々と話ができ、パワーポイントを使ってプレゼンできる人財づくり ② 学んだ内容を、物流の現場で実践して結果を出す人財づくり とはいえ、ガンガン毎月研修をやればよいというものではない。運送・物流現場で働く仲間は、みんな勉強嫌いである。3年間は、上期、下期に分けてまずは、年2回を継続して、座って人の話を聞けるように、研修に慣れていくところからスタートしている。 運送・物流現場に長く働いていると教育を受ける機会がほとんどないので、1日座って講義を受けることが本当に苦痛なのだ。それを徐々に慣れさせていくことが必要である。だれでも急に、習慣を変えることはできないのである。 そこで、物流のハードのスキルとソフトスキルやチームビルディングなどを取り入れて、1日楽しく学べるプログラムにした。座っているだけ、聞くだけの講義にしないために、ワークショップを取り入れ、話したり、動いたりできる内容に作りこんだ。全て企業ごとに、現場の社員の理解度に応じてオーダーメイドのプログラムで作りこんでいる。 例として、サトー商会での私の運送・物流現場の教育研修プログラムの一部は下記のとおりである。 ① 物流現場における挨拶の意義と目的 ~なぜ物流現場に挨拶が必要なのか~ ② 笑顔の講座 ~運送・物流現場での笑顔の効果とは~ ③ 物流改善に関わるモチベーションの上げ方 ④ 継続的成長のためのコーチング ~研修を風化させないために~ ⑤ 物流の6大機能(輸配送・包装・荷役・保管・流通加工・IT(物流システム))を学びます ⑥ 物流改善の技法を学ぶ ⑦ 多工程での改善が求められる物流改善を成功させる技術を学ぶ ⑧ 納期短縮に貢献する『庫内作業スピード』の上げ方 ⑨ 理論在庫に近づける『在庫精度の上げ方』 ⑩ 物流改善成果を数値化する『改善精度の設定方法(KPI)』 ⑪ 物流現場で人は“なぜ”間違うのか? ~物流現場での失敗から対策を考えるワークショップ~ ⑫ 運送・物流業界の基礎財務会計、業界コスト指標 ⑬ 物流コストの考え方と基礎 ⑭ あなたはなぜ人前で話すのが苦手なのか?~人前での話し方・プレゼンを学ぶ~ ⑮ 運送・物流企業でのCSRとコンプライアンスを学ぶ ⑯ チームビルディング(バブルの塔・レゴブロックプログラム・粘土プログラム・折り鶴・チームイメージ等) ⑰ 資格試験(希望者):ロジスティクス・オペレーション3級を受験 これらの研修で、上期に研修をしたら、その学んだ内容を下期まで何でも良いから、自分で決めて一つ取り組んだ内容を発表してもらうように宿題を出した。3年目の最終回には、パワーポイントでプレゼンテーションを10分間はできるように育てていくのである。 物流現場改善の10年間の取り組み成果 現在は、10年も物流現場社員教育を継続してきたので、物流現場のリーダークラスが育ってきており、様々な物流現場改善が実を結んできている。 改善の取組結果を、社内だけでなく、外部にも公開しています。物流部前の廊下には、物流現場改善の様々なプロジェクトの物流KPIでの管理や「改善の見える化」にも取り組んで、進化し続けている。 現在、特に力を入れて取り組んでいる改善プロジェクトの一例として ① 5S改善プロジェクト ② 在庫不突合削減プロジェクト ③ 不良品削減プロジェクト などがある。 そのほかに、現場のモチベーションアップの取り組みにも積極的に取り組んでいる。 1つ目は、「スマイル強化月間」を作って、スマイルバッチを作ってお客様先で挨拶と笑顔を忘れないように、初心に帰る気持ちを継続している。お客様からも大変好評である。 2つ目は、「現場の社員の決意表明」を張り出して、輸送課の配達するメンバーの顔をしっかりと覚えてもらえるように取り組んでいる。配送のドライバーというととかく顔が見えないと言われる運送会社さんは多いのですが、一人のドライバーさんを大切にすることで、人財の定着化につなげている。 3つ目は、「現場のパート社員の女性のモチベーションとチームワーク醸成」のために、オレンジスターズ、スノーフェアリーズとチーム名をつけて、会社に愛着を持ってもらい、一人ひとりがどんな仕事をしているか紹介をしている。 4つ目は、「物流現場のヒーロー」を定義して、誰もがヒーローになれるということで、一人一人が現場の主人公として活躍を見えるようにしている取り組みが、現場のモチベーションアップにつながっている。 5つ目は、庸車先の品質管理にも取り組んでおり、配送ミス件数を見える化している。 庸車先にもサトー商会のラストワンマイルを配送する仲間として、一緒にミスを削減していこうと、原因と対策を考えてもらっている。 おわりに:運送・物流現場の人手不足への特効薬はあるのか? 最近は、他社がサトー商会の現場改善の取り組みを見学に来て、学んで帰っていただけるようになった。とても嬉しいことである。 今後もさらなる改善に向けて、社外にも学びに出て、他社の良い改善の取り組みを貪欲に取り入れて改善を図っていってもらいたいと思っている。 現在、どこの運送・物流現場でも人財不足が叫ばれていますが、結論から言えば少子高齢化でもう人はたくさん集められないのである。経営者が覚悟を決めて、今いる人財に教育投資することが大切なのだ。採っては辞め、採っては辞めを繰り返せば、採用コスト、教育コストばかりかかり、結果として現場が疲弊してしまうからである。 せっかくご縁があって、自社に応募して入ってきた新人、中途採用者が辞めない、人財の教育の仕組みづくりを徹底して年数をかけて作りこんでいく企業が勝ち残るのだと私は考えている。 人財育成については、私は、サトー商会の現場からたくさん学ばせていただいた。もし、サトー商会様の現場から物流教育を学びたい方がおられたら、気軽に私にご連絡ください。第三者の目で現場を見ていただき、忌憚のない意見をもらうことも大事である。自分たちでは気がつかない改善のヒントになるからである。また、現場社員も自社の現場を案内して歩き、プレゼンして説明することも学びにつながるのである。なお、見学後に、相手先にもお伺いして、お互いに現場を見せ合って、改善点を出し合うのも良い教育だと私は考えている。 なお、サトー商会さんの現場を見て、うちはまだまだレベルが低いなーと思われたら、サトー商会の現場改善のリーダーをあなたの会社に派遣して現場改善指導をしてもらっても良いのである。 最後に、運送・物流現場の改善に近道はないのですが、教育の形をしっかりと作れば、現場に人が定着して、安定した品質を提供できると私は信じている。 今後も、多くの運送・物流現場で働く仲間が、この会社で働いて良かった、あー幸せだなと思ってもらえるお手伝いを続けていけるように、私もさらに精進して学んでいこうと考えている。 |
流通ネットワーキング 2018年5・6月号掲載 |
2018年5・6月号掲載
|